【クロストーク】「頑張りすぎる食事」は続かない ― アスリートフードマイスターと寝かせ玄米の社長が語る、“70点”という健やかさ
アスリートの食事と聞くと、品数の多い食卓、徹底した制限、ストイックな自己管理を思い浮かべる方が多いかもしれません。 でも、現役を支え続けたアスリートフードマイスターと、17年間「主食を玄米に」を提案してきた玄米社長が出した結論は、意外なほどシンプルでした。 「食事は、薬ではありません。続けられる習慣が、すべてです。」
※この記事は対談を編集・要約したものです。健康に関する記述は個人の体験や見解を含みます。体調や持病のある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。
「アスリートの妻」になった日から

村田英理子さんは、アスリートフードマイスターとして、現在はプロ野球選手の才木浩人投手など複数のプロアスリートの食事をサポートしています。プロラグビー選手である夫のサポートを通じてスポーツ栄養の知識を深め、著書に『GOOD HABIT: 心はずむ毎日の、うれしい食習慣(山川出版社)』があります。
今回のスペシャル対談は、村田さんが実は昔から寝かせ玄米を食べていたということ、そしてYUWAERUのお客さんでも、パフォーマンス向上のために食生活を気にするアスリートが増えているため、その辺りのお話を現場、結果を重視するお二人に語ってもらおうということで実現しました。
—きっかけは、結婚でした。
学生時代から交際していた相手が、ラグビー選手。彼氏彼女だった関係が、結婚を境に「アスリートの妻」へと変わります。
「ただ料理を作るのではなく、アスリートのための食事を、突然作らなければいけない立場になりました」
当時の村田さんは、まったく別の仕事に就いていた会社員。朝早くから深夜まで働く生活のなかで、夫の食事と向き合うために、自分でもスポーツ栄養を学び始めます。やがて第一子の出産を機に、栄養を「広める」側へ。気づけば、その世界に7〜8年。夫は36歳まで現役を全うし、昨年引退しました。ラグビー界で30代後半まで戦い抜くのは、決して当たり前ではありません。
「食事と睡眠を含めて、納得できる習慣を持てていたからこそ、しっかり回復できて精神面もポジティブに保てた」と、ご本人もよく振り返るそうです。
寝かせ玄米は「美味しさの追求」から生まれた

一方の玄米社長 荻野 芳隆が玄米にたどり着いたのは、約20年前。「主食を玄米にすることが、健康のいちばん合理的な方法だ」と確信した時でした。
ただ、当時の玄米には大きな問題がありました。
「とにかく、まずかったんです。パサパサで。自分が食べられないものを、人には勧められない」
そこから、美味しくする方法をひたすら探す日々が始まります。炊飯器、鍋、米の種類、炊き方――あらゆる組み合わせを試し、たどり着いたのが「圧力で炊き、保温ジャーで寝かせる」という方法でした。
「保温しておくと、炊いた当日より翌日のほうが美味しい。じゃあ、どれくらい寝かせると一番美味しいのか、と研究して」
こうして“寝かせる”工程が定まり、「寝かせ玄米」という名前が生まれました。最初は小豆を混ぜていましたが、試すうちに「シンプルなほうが何にでも合う」とわかり、今では混ぜ物のない品種そのものの美味しさにも行き着いています。
すべては、自分が毎日食べたいと思えるかどうか。出発点は、理屈ではなく「美味しさ」でした。
二人がたどり着いた結論 ―「70点でいい」

立場の違う二人が、まったく同じ言葉で語ったことがあります。
食事は、一度で何かが変わる薬ではない。長い目で見た習慣がすべて。
「一回ラーメンを食べたところで一気に崩れるわけではないし、一回きれいな食事をしたところでパフォーマンスが変わるわけでもない」と村田さん。だからこそ、遊びを持たせたうえで、自分なりの良い習慣を保つことが大切だといいます。
玄米社長の言葉なら、こうです。
「うちは“健康は70点でいい”と言っています。たまにラーメンを食べても、3分の1くらい外しても、3分の2がちゃんとしていれば大丈夫」
実は村田さんも、最初の半年ほどは「これが正しい」という理論に凝り固まり、品数や食べ合わせの“正解”ばかりを追って、心身ともに限界に達した時期があったといいます。
「肩の力を抜かなきゃダメだ、と気づいてから、作るのも楽しくなりました。デザートを食べても罪悪感がない。そのバランスが保てるようになったんです」
完璧な100点を目指して燃え尽き、0点に戻る。そんな“白か黒か”ではなく、70点をずっと続ける。二人の哲学は、見事に重なっていました。
アスリートと一般人で、食事は変えるべきか

「結局、アスリートも一般の人も、同じ人間で、同じ動物です」と玄米社長。健康な状態こそ、人が本来の力を発揮できる状態だ、という考えが根底にあります。
では、アスリートと一般人で食事を変える必要はあるのでしょうか。村田さんの答えは明快でした。
「量と回数は、アスリートのほうが特殊です。でも、食卓の“仕上がり”そのものは、変える必要はないと思っています」
アスリートに良い食事は、一般の人にも良い。たんぱく質の量などは多少違っても、メニューの構成は同じでいい――数多くの選手を間近で見てきたからこその実感だといいます。
「高たんぱく信仰」を、いったん置いてみる

いまだ根強いのが「高たんぱく・低脂質」を突き詰める考え方です。鶏むね肉を食べ、プロテインを足し、とにかくたんぱく質を増やす。
これに、二人はやや慎重です。
「健康な人なら、わざわざサプリで補わなくても、食事で十分に足りていることが多いといわれています」と村田さん。たんぱく質はもちろん大切ですが、脂質も大事な栄養素。魚の油やオリーブオイルのような“良い脂”は、むしろ意識して取り入れているそうです。
「過剰に摂れば体に負担がかかる、ともいわれます。アスリートでも、たんぱく質ばかりに気を取られなくていい。動くためのエネルギーとして、バランスよく食べる――そこに価値があると考えています」
実際、村田さんがいまサポートする選手の多くは、シーズン中はプロテインに頼らず、食事から栄養を摂っているとのこと。「小さくなることが怖い」という心理から抜けられないだけで、本当はもっと自由でいい、というのが二人の見立てです。
※たんぱく質の必要量は年齢・性別・運動量・健康状態によって異なります。持病のある方は専門家にご相談ください。
なぜ「主食を玄米に」なのか

二人が共通して勧めるのは、削りすぎない穀物を主食にすること。とりわけ玄米です。
「食事の量が減ってきたとはいえ、ご飯は必ず食べますよね。それが真っ白なお米か、玄米か。この差は、とても大きいんです」と村田さん。
たとえば寝かせ玄米なら、1食でおよそ4gの食物繊維がとれるといいます。
「食物繊維を4g、ほかの食材でとろうとすると、結構大変なんですよ」と玄米社長。
満腹感があり、食物繊維もしっかりとれる。「これさえあれば、おかずを少しサボっても大丈夫」と思える安心感も、村田さんは大切にしているそうです。納豆ご飯にすればたんぱく質も取れるので、朝食はそれだけでほぼ完璧、と笑います。
続けるコツは「一段ずつの階段」と「朝に固定」

知識があることと、実践できることは違う――これも二人の共通認識でした。
「正しいことを伝えるより、“これならできるでしょう”を伝える」と玄米社長。肉も食べていい、我慢しなくていい、もちもちの玄米なら食べられる、温めるだけのご飯パックなら続けられる。そんな提案を、ひたすら積み重ねてきたといいます。
村田さんのアプローチも、根っこは同じです。
「“あれはダメ、これはダメ”ではなく、“これなら食べられるよ”という良さのほうを伝えます。そして、理想形に一気に近づけようとしない。1か月に1つずつ、要素を足したり引いたりして、ステップを踏むように」
3日、3週間、3か月。この区切りを越えられたら、習慣が変わってきた合図。焦らず、一段ずつ階段を上がる。半年後に振り返ると、大きく変わっている――そんなイメージです。
では、寝かせ玄米はどう取り入れるのが良いのでしょう。村田さんの提案は「朝に固定する」でした。
「続けるには、システム化したほうがいい。朝ごはんを寝かせ玄米に固定すれば、昼や夜が外食でも下支えになります。朝なら自分でコントロールしやすいですし、安定したものを食べられていると、心の余裕も違うんです」
※運動量の多い方の試合直前は、食物繊維が多くお腹に残りやすいため、玄米より消化の早い主食が向く場合があります。タイミングは目的に合わせて選んでください。
SNSの「理想のアスリート飯」という呪い

最後に、村田さんがどうしても伝えたいテーマがありました。SNSで見かける、品数の多い“理想のアスリート飯”です。
「私も、これに悩まされた時期があります。たくさん作らなきゃ、と。でも発信って、うまくいった日しか載せないんですよね。すごく狭い世界で、勝手にもがいていた、と後から気づきました」
映えるのは、品数の多い食卓。けれど本当に大事なのは、品数ではなく品目数だといいます。
「一汁一菜でも十分なんです。そこにどれだけの品目が入っているか。それさえ気をつけていれば、アスリート飯でも、成長期のサポートでも、十分だと思います」
100点を目指して疲れ果てるより、続くことを選ぶ。叩かれたくない、完璧でいたい――そんな気負いは、作り手の首を絞めてしまう。
「そう考えられるようになってから、本当に楽になりました」
食事も、睡眠も、ぜんぶつながっている

二人の話は、食事だけにとどまりませんでした。
玄米社長が繰り返したのは、「メンタルがいちばん影響する」という考え。どんなに良い食生活をしても、心が健やかでなければ健康は遠い。逆もまた然り。我慢やストレス、罪悪感こそ、食生活にとっていちばんの敵だといいます。
村田さんも、「食事で心がつくられている」と実感する一人。夫のための食事を整え始めてから、自分自身もすこぶる元気になったそうです。
睡眠も同じ。村田さん夫妻は、食べ終わりは就寝の3時間前、入浴は1時間半前、最後の1時間はデジタル機器に触れない、という習慣を7〜8年続けています。夜には数行の日記をつけ、読書をして、10時には眠る。
「睡眠は、食事以上にすぐ効き目が出ます。寝られなかった翌日は、本当にしんどい。だからこそ守っています」
食事を変えてから、風邪をほとんど引かなくなった――二人が口をそろえたのも、印象的でした。
「70点」を、今日から

頑張りすぎる食事は、続きません。
完璧を目指して0点に戻るより、70点をずっと続けるほうが、ずっと健やか。その第一歩として、まず主食を玄米に置き換えてみる。一段だけ、階段を上がってみる。
温めるだけで食べられる寝かせ玄米なら、忙しい朝でも、一人暮らしでも、無理なく続けられます。
今日の朝ごはんから、あなたの“70点”を始めてみませんか。
アスリートフードマイスター
村田英理子さん
兵庫県神戸市出身。海外経験と企業勤務を経て、アスリートフードマイスター資格を取得し独立。プロラグビー選手である夫のサポートを通じてスポーツ栄養の実践知を深め、実生活に取り入れやすい食事メソッドを提案。企業・教育機関での講演やレシピ開発など幅広く活動。
著書紹介
GOOD HABIT:心はずむ毎日の、うれしい食習慣
「GOOD HABIT」読み方はグッドハビット、英語で「良い習慣」という意味。 いつもの料理へのひと工夫からはじまる心地よい食習慣。 アスリートのための良い食事は、毎日ごはんを作る私にとっても良いものです。