【前編】特別対談 “林業と結わえる” 古川ちいきの総合研究所 古川大輔 × 結わえる 荻野芳隆
古川ちいきの総合研究所の代表取締役 古川大輔さんは、結わえる代表 荻野芳隆とは船井総合研究所株式会社時代の同期で、それぞれ林業と食・健康という異なるアプローチでともに「地域を元気にしたい!」という熱い思いで、切磋琢磨してきた仲間です。
結わえるは「気持ちいい生活と気持ちいい世界を結わえる」ことと「伝統的な生活文化と現代の生活文化を結わえる」ことをビジョンに掲げ、玄米を中心にした食事から体を想い、食材を想い、生産者を想い、自然を想うことを結わえています。
林業と食は一見関係ない存在のように見えて、実は私たちの生活に密接につながっていることを、林業のエキスパートの古川大輔さんと対談することで浮き彫りにしていきます。
■TOPICS
・そもそも林業ってなんだろう?
・古川さんのお仕事とは?
・森を失った原体験
・知らない村でかっこいい人たちに出会った原体験
・コンサルティングの道を志す
・林業が抱える課題とは?
・フリースタイル林業
そもそも林業ってなんだろう?
古川大輔(以下古川):林業のことを話す前に、最近皆さんによくこう聞いていることがあるんです。「人はなぜ、木を植えるのでしょう?」。みなさん答えてもらってもいいですか?
結わえるスタッフ:地球温暖化の解消のため?
古川:100点満点の回答出ましたね!木はCO2を吸ってくれますから、木を植えることは地球温暖化解消につながりますね。他には?
結わえるスタッフ:動物たちが生きるため。
古川:素晴らしい答えですね。僕がこの質問をして、よく聞く答えが、「建築として木材を使うため」で一番多いんです。他にも上野公園の桜の木のように観賞用のための木々もあります。この質問をした理由は、林業を語る前に、森って何だろうっていうことを考えると、森には多面的な機能があるということがわかるんですよ。
先ほどお答えいただいたように、森を健全にしていると生き物がたくさんいますし、CO2もいっぱい吸ってくれますし、木を植えないと土が崩れるので土砂の流出防止のためなど、さまざまなことが挙げられます。
そのような森の多面的な機能を最大限に発揮させることを僕は仕事として取り組んでいるんです。
古川さんのお仕事とは?
荻野芳隆(以下荻野):古川さんの仕事は、林業コンサルタントということでいいですか?
古川:そうでもないですね。
荻野:古川さんって何者ですか?何で飯を食べているんですか?
古川:何で飯を食っているんでしょうね、それをここで言ったら林業の美しいイメージが崩れてしまうかもしれない(笑)。
林業に対するみなさんのイメージはおそらく、木を植えて育てて伐採してまた植えてという循環するような感じなのではないかなと思っています。では林業の横にある産業は何でしょう?
例えば、魚で考えてみると、漁師がマグロを一本釣ってきたら、その横にあるのは魚市場ですね。豚一頭買ってきたら、その横にあるのは解体業者ですね。林業でいうと、木材の横にあるのは製材業で、その横にいるのは家を建てる業者・工務店ですね。
本当はその間にさまざまな流通が入ってくるんですが、僕の仕事は山から始まって出ていくところまで全て一貫して横串に地域を見ていくディレクターというような仕事をしています。
荻野:そうすると、クライアントはどこになるんですか?
古川:お客様は2種類あって、1つは地方自治体です。ある地域がある森をどのように守り活用していくのか、ということについて、ビジョンを作り、民間企業と一体になって地域を発展させるお仕事をしています。もう1つは林業・製材業・国産材を使った工務店などの経営サポートをしています。
森を失った原体験
荻野:古川さんが林業に携わるようになったきっかけを教えてください。
古川:日本の森って国土の7割が森林なんですよね。
荻野:国土の7割が森林であることを、ほとんどの日本人は知らないと思います。
古川:知らないんですね!まあほとんどが森なので、森林率が高いんですよね。都心に住んでいる人はわからないかもしれませんが、僕は東京都町田市出身で、近くに森があったので、子どもの頃はそこでよくクワガタやザリガニをとって遊んでいたんです。高校生ぐらいになって森がなくなってスーパーやマンションがたくさん建ち並ぶようになりました。
スタジオジブリの作品に『平成狸合戦ぽんぽこ』っていう作品があって、1994年に初公開されているんですけど、この話の中に、狸たちが森を求めて町田に逃げるというシーンがあるんですけど、今や逃げ場になっていた町田にすら、森がなくなっています。
自分が森で遊んだ楽しい思い出を、自分の子どもの世代にはやらせてあげることができないということに憤り、悔しさがありました。こないだテレビで京王相模原線の多摩境駅周辺が東京の住みやすい街ランキング三位に入っていて、町田市にあるんですけど、僕にとっては今住みやすい街と言われても、自分の森を返してっていう気持ちの方が強くて、それが森に対する原体験になっています。
知らない村でかっこいい人たちに出会った原体験
古川:もう一つは学生時代に体験した、インターンシップです。たまたま1枚のパンフレットが大学にあって、「東京の学生、田舎でインターンしませんか?」って書いてあったんですよ。当時の同級生からは証券会社や金融業界が人気があって、みんなそちらを向いていたんですが、僕はすこし天邪鬼なところがあって、町田は森がなくなってしまったけれど、田舎にはまだ森がたくさんあるのかなと思って、名前の知らない市町村がいくつか書かれていて、鉛筆転がして行き先を決めたんです。
それで、その市町村に応募したところ、村役場から電話がかかってきて、今でも覚えているんですけど、「本当にうちの村でいいんか?」って。その場所が、奈良県吉野郡川上村という村です。ほとんどの人が知らなくて、吉野葛や桜で有名な吉野町までは人が来るんですが、そのさきはほとんど行かないんですね。
僕はそこで漫画の『ゴールデンカムイ』に出てきそうな、森で生きる人々と出会ったんです。僕が何で林業に携わっているか、ということの一番大きな理由は、命懸けで林業に従事している素晴らしい人々の仕事が誰にも知られていなくて、木材が高く売れなくて縮小している、その現実をこの目で見て体験したからなんです。
国産材はいいよとか、地球環境に優しいとか言われますけれど、現場でやっている人々は、怪我もするし、実際僕の知り合いで大怪我をした人もいるし、林業従事者と結婚して妻になった人は、覚悟していますという人もいるし、もちろん安全性には気をつけていますが、命をかけてやっている人々がいるのを知って、昔ほど木材が高く売れないということを聞いて、何か力になれないだろうか、と思ったのがもう一つの原体験です。
そのインターンが楽しくて、大学院に籍を置いているだけで、お金が貯まったら吉野に行くということを繰り返していて、地元の友人からは、東大大学院まで行ったのに森に行っているらしいって言われたりして、ずっと川上村に通っていました。
コンサルティングの道を志す
その後も全国の山村地域をめぐったり、地域づくりのインターンで他の地域に行った学生同士で年間報告会があったりして、いろいろ情報交換して旅を続けて、ふと気づいたら27歳ぐらいになっていました。僕はこれからどうやって生きていくんだろうということを旅をしながら考えるようになった時、船井総研を見つけたんです。
中小企業をコンサルティングする会社で、好きな業界をコンサルできますっていう内容に惹かれました。面接でも林業のことをやりたいと伝えると、1〜2年修行したら好きな業界を切り開きなさいと言われて、船井総研に入社しました。
荻野:その時に、林業従事者にならずにコンサルティングの道を志したのはどうしてですか?
古川:そうですね、これは林業に限らず、農業・漁業などの一次産業全体に言えることなんですが、一生懸命汗を流して作っている人々が自分たちで値段を決められないっていうのは何て悲しいんだろうという問題意識があったので、自分で値段を決める売り方のサポートがしたいと思っていたんです。
でも当時やり方がわからないので、船井総研に入社して、先輩方のやり方を真似ていくことから始めました。
荻野:当時「林業コンサルタント」なんていないですよね。
古川:ヒントになる人はいっぱいいて、日本酒のコンサルをしている先輩から学びました。日本の老舗の酒造をコンサルしている先輩の机を見ていると、「あなたの代で売れなくなる」とか、「あなたの代で産地を潰すんですか」といった刺さるワードを見つけたりして。だから業界は違えど、やり方は似ているはずだと思いました。
でも僕は林業のことを全く知らないんですよ。林業の世界の時間軸って長くて、1-2年でわかることはほとんどなくて、20何年やって、50年くらい林業をやっている人から林業界で中学生ぐらいになったねっていうくらいなものです。一回手を入れた森が明らかに再生して変わるまでに最低10年は必要です。時間軸の短い中でも結果が出るのは丸太や製材を高く売るということでした。
だから木の生産方法とか、オペレーションマネージメントなどはクライアントから教えてもらうという時期がすごく長かったです。
林業が抱える課題とは?
荻野:じゃあそんな古川さんが考える、林業の課題って何ですか?
古川:一番の課題は、「知られていないこと」ですね。
荻野:林業の会社で知っている会社ありますか?
結わえるスタッフ:知らないです。
古川:実は林業と名のつく会社ってたくさんあるんです。ですが、カテゴリーがバラバラすぎて何を指しているかわからない状況になっているんです。
例えば、会社名が◯◯林業なのに、実はただの製材会社だったり、工務店だったり、山林所有者だったりするんです。これらの会社の決算書を見比べても比較できないんですよね。ラーメン屋で例えると、麺しか作っていないのにラーメン屋って言ったり、肉しか提供していないのに、ラーメン屋と名乗っているようなものなんです。
だから林業と言ってもカテゴリーがバラバラすぎて何を示しているのかわからなくなっています。なので最近では林業という言葉を使うより、森林という言葉を使う方が親しみが湧きやすいので、森林という言葉で広がりを増やそうという人たちもいますね。
フリースタイル林業
荻野:古川さんは何と表現しているんですか?
古川:人に合わせます。「森」という言葉は、「森林」以外に使われることがほとんどなくて、「山」という言葉の方が日本人が昔から山とともに暮らしていた歴史が含まれた意味を持つと聞いたことがあります。最近では「里山」と表現する人がいたりします。僕はそれも全部「林業」だと思っていますが、理解を求めるのが難しいので「トータル林業」とか、「フリースタイル林業」と言っています。
荻野:フリースタイル林業?そんなのあるんですか?
古川:もともと提唱していたのは、林業界の巨匠の村尾行一先生という方です。「間違いだらけの日本林業」という本を執筆されていて、去年亡くなってしまわれたのですが。林業はフリースタイルでいいんだっていう、言わば戦後の林業施策に思考停止して、同じようなことしかしない林業者に対するメッセージですね。
なので、林業の課題というと、知られていないこと・理解されていないことですね。
次回中編で林業の課題や歴史に踏み込んで話していきます。
お楽しみに!