【特別対談第3回】上出長右衛門窯・上出惠悟×結わえる代表・荻野芳隆
結わえる代表・荻野芳隆が、各ジャンルで活躍されているゲストをお迎えして贈る対談企画の第3回です。
今回は、結わえるの創業10周年を記念してリニューアルしたギフトボックスなどのデザインを担当された上出長右衛門窯・上出惠悟さんとの対談、最終回です。
結わえる本店でハレ箱膳定食*を食べながら、これから目指す姿についてお聞きしました。
*ランチタイム限定メニューです。
上出:ずっとうちの箸置きを使ってくれているんですね。しかし使い込まれてますね(笑)。
荻野:このお店をオープンしたときからなので、7年ぐらい使っているかな。
上出:器は使われてなんぼですよね。よく「飾ってます」って言われることがあって、大事にしてくれていることはわかるんですけど、それってなんか微妙だなって思っていて。それぐらい身近なものじゃないんだろうなって思ってしまいます。
荻野:そこらへんの役割をうちが担いたいと思っています。このお店には健康や玄米に関心がある人と、蔵前が流行っているから行ってみようという20〜30代の若者と、おしゃれなものが好きっていう気持ちでこのお店に来てくれている人がいると思います。まず玄米を食べてもらって、一汁二菜、一汁三菜で満足できるということを知ってもらって、それを食べるために、いい飯碗と、いい汁椀と、箸置きと小皿を準備して、まずそこから始めたいんですよね。いい飯碗使っていたら、だんだんプラスチックの茶碗は嫌になってくるから、ちゃんとしたものにしようっていう気持ちになるっていう。
上出:今って箸置きそのものが飲食店で使われなくなってて、特にランチで箸置きを使っているお店ってあんまり見たことがないですね。ありがたいなーって思います。
荻野:そういう文化、美しさみたいなものがほとんどなくなりかけていて、器の上に直置きだったり、仮に箸置きが置いてあっても、途中から使わなくなって器の上に置いちゃう。
上出:箸置き使わない親から育ったら、箸置きなんて使わないですよね。逆に20〜30代が親世代に日本文化を教える、みたいなことをやっていくのもおもしろいと思っています。
荻野:僕も20〜30代をメインにいろいろやりたいなって思っているんです。できるだけハードルを下げて、ゼロからの第一歩をいっぱい作りたいです。
ーー上出長右衛門窯のお客様も若い層が増えていますか?
上出:はい、増えていると思います。ここ10年くらいは若い方や同世代に向けてアプローチして来たので、嬉しいことです。でも九谷焼はそれほど安くないので、若い人が気軽に買えるものではないということも分かっています。
荻野:若い人に興味を持ってもらえるけれど、経済力のために買えないというギャップは、僕も課題だなって思っています。そのへんはある程度しょうがないんですかね?
上出:そうですね。九谷焼は生活必需品ではないので、その価値を感じて、生活に取り入れてもらうにはある程度時間はかかるかなと思います。まずは知ってもらったり、憧れを持ってもらったりできれば良いかなと。でも10年、20年経つと、きっと状況も変わっているかなって思っているんです。とりあえず若い方に興味を持ってもらえないと、この先続けることはできないので。
ーー価格を下げようとか、売れるものを作ろうと思うことはないんですか?
上出:10年前に僕たちは若い人に向けた低価格の転写ブランド「クタニシール」を作ったんですけど、クタニシールのワークショップにはこれまで2万人もの人が参加してくれていて、そっちはそっちで九谷焼の入り口を作りつつ、上出長右衛門窯は昔から培われた手描きの技術や続けてきたものをなるべく変えずに保っていきたいという気持ちがあります。もともと割烹食器を作ってきたメーカーなので、最近はとくに本来の姿に立ち返って、割烹を大切にして、料理屋さんにむけてどうアプローチしていこうか、ということを考えています。
荻野:最近、「これって和かな?フレンチかな?」みたいな感じの一万円くらいのコース料理がけっこう気に入っていて、おいしいし、料理の世界も境目がなくなってきていると思うんですが、そういう流れだと器も合わなくなってきていませんか? 九谷焼もお料理に合わせて変わっていくんですか?
上出:お料理が変わっているならば、お皿も変わらなきゃと思いますし、そういう流れは別に悪いと思っていなくて、自然なことだと思っています。かといって純粋な日本料理を追求されてる方がいなくなるとも思わないですし、中の料理に合わせて変わるのが器の本質と思いますので、自分たちができることを少しずつやっていきたいです。
荻野:なるほど。この蔵前本店でも、和洋中で料理自体も境目のないものにしていきたいなと思っています。バラエティがあった方が毎日来れるし、家でつくるときの参考にもなると思うので。どうしても和食が多くはなっちゃうんですが。ぜひ、そんな食事に合う器を上出長右衛門窯でつくってもらいたいって思っています!
上出:ぜひ!僕も作りたいと思いますし、そういうお仕事を僕達も一緒にやることによって、教わることがあると思っています。器をおさめたお店にはみんなで実際に訪問するし、こういう使われ方があるのか、という学びや発見になります。割烹食器を作っている僕たちは、自分たちが使う食器と、作っている器が乖離してしまうんですよね。でも自分たちが使いたい器をつくっても仕方がないし、普段食と関わっている人たちと一緒に器をつくっていきたいという思いがあります。
荻野:うちに玄米によく合うカレーがあるんですが、例えばカレーのお皿を作りたいってオーダーしたら、みなさんでうちのカレーを食べてから作るんでしょうか?
上出:食べるだけじゃなくて、そもそもカレーってどんなもの?インドに行って体験してみる?とか、西洋カレーの発祥ってどこなんだろう?とか、突き詰めて勉強しながら考えていけばおもしろいと思いました。
荻野:そういうアプローチ良いですね。今回のモチーフを作るときも、玄米を食べていたっておっしゃってましたよね。
上出:そうです。実際に荻野さんの著書を読んで、寝かせ玄米を作って、食べて、僕の妻は七号食も実践しましたし、そうやって「なんで荻野さんが寝かせ玄米にまつわることを提唱しているのか」ということを知ったんですね。普段の仕事でも同じで、原点とか、成り立ちとか、人の気持ちに思いを馳せて、身を通して体験しないといけないと思っています。そういうことが、”伝統を現代に生かす”ということには重要だと思っています。ただ形だけを捉えて”なんとか風”に作るのではなく、本質的にどうして現在のかたちがあるのか、ということを考えたいです。
荻野:今回上出さんがつくってくれたこの鬼のデザインは、僕以上に本質を捉えていると思って、とても気に入っていますよ。これの満足度はどれくらいですか?
上出:結構気に入っていますが、みなさんに気に入ってもらえているのかが気になります。結わえるの袋を持っている人にもまだ遭遇したことはないので、時間がたたないと分かりませんが、今の段階で80〜90点ぐらいの仕上がりかなーって思います。お客様の反応とかがもう少し見えてくると100点になるかな。
荻野:たくさんの方に手にとっていただきたいですね。本日はありがとうございました!
PROFILE
■上出惠悟/KEIGO KAMIDE
1981年石川県生まれ、2006年東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。同年より、1879(明治12)年創業の九谷焼窯元である上出長右衛門窯の後継者として、職人と共に多くの企画や作品の発表、デザインに携わる。2014年合同会社上出瓷藝(かみでしげい)設立を機に本格的に窯の経営に従事。東洋から始まった磁器の歴史を舞台に普遍的で瑞々しい表現を目指すと共に、伝統や枠に囚われない柔軟な発想で九谷焼を現代に伝えている。主な仕事として、伝統柄をアレンジした「笛吹」や、スペイン人デザイナーを招聘した「JAIME HAYON×KUTANI CHOEMON」シリーズ、九谷焼の転写技術を活かした「KUTANI SEAL」などがある。また個人としても磁器を素材に作品を制作し、幅の広い活動を展開している。
https://www.instagram.com/kamidekeigo/
■上出長右衛門窯/KUTANI CHOEMON
明治12年(1879年)、九谷焼中興の祖である九谷庄三の出生地、石川県能美郡寺井村に創業。東洋で始まった磁器の歴史を舞台にしながら、職人による手仕事にこだわり、一点一線丹誠込めて割烹食器を製造している。深く鮮やかな藍色の染付と九谷古来の五彩(青、黄、紫、紺青、赤)を施し、古典的でありながら瑞々しさを感じられる九谷焼を提案。年に一度窯を全面解放し、絵付体験や蔵出し市などをお楽しみ頂ける窯まつり(5月連休)を開催している。
http://www.choemon.com
▼上出さんが描いた鬼箱に入ったセットはこちら