【お出かけルポ】第2話:素人なのに和裁してみた。運針の練習から生地の断裁へ! 和裁で見える日本の文化
『 第1話:素人なのに和裁してみた 』かわいくてお手頃な古着浴衣を大人買い …和裁に挑戦!・・・のつづき。
まずは「運針」の練習からはじまった和裁教室。
和裁特有の針の運び方に苦戦し、指先を何度もぷすぷすと刺しながら、ようやく思うように縫えるようになった1回目。
2回目の講習は生地の裁断からはじめます。
着物の生地について
今回縫うことにしたのは、先生にオススメしてもらったこちらの生地。
着物の生地に使われるのは絹や木綿などが代表的ですが、これは化繊。
つまり天然繊維ではなく化学繊維ですが、実は古くから着物にもよく使われてきたのだそうです。
日常的に着るものだからこそ、簡単に洗濯ができ、雨や汚れにあまり神経質にならなくてよい、使い勝手の良さが魅力。そして価格もお手頃です。
今回縫うことにした反物は、汚れた部分があるアウトレット品ということもありお手頃な価格。断裁の際に汚れた部分は目立たないところに来るように調整します。さらっとした肌触りで、夏場は特に涼しく着られるそうです。
こうした生地も戦後、着物を日常的に着る人が減ったことで、作られる反物の数が減ってしまったそう。この生地も廃盤になってしまったため、中古で出回っているものしかないそうです。
「着物に限らず、身近なものではなくなってしまった日本文化はたくさんあるんですよ。」と、岩佐先生。
「長さの単位もそうなんです。」と先生が取り出したのは、裁断に使う「鯨尺(くじらじゃく)」のものさし。
失われた日本文化
戦前戦後で日本人の着る物が変わったという認識はありましたが、「単位」という存在もその一つだそう。
「尺」の単位の中でも「鯨尺」というのは古来、和裁用に使われてきたものさし。「鯨尺」という名前の由来はくじらのヒゲでつくられていたためとも言われています。いまでも和裁の世界ではこの「鯨尺」が使われており、先生が寸法を割り出しているエクセルのデータでも鯨尺とセンチの両方が算出されるようになっています。
(素人が見てもさっぱりですが、身長や胸囲などを入力すると裁断寸法が全て算出されるという、先生オリジナルのデータです…!)
元々「尺」という文字は広げた手の中指から親指までの長さが元になっていると言われていて、日本人の生活・身体の感覚に根ざした単位として使われてきました。それを、いわゆるグローバルスタンダードに合わせようとしたために尺貫法の使用が法律で禁止されたという歴史があります。
今でも和裁や建築業界などでは使われていますが、日常生活の中では馴染みのないモノになってしまった尺貫法。
今から単位を尺に戻すことは難しいですが、それまで何百年と暮らしの中に息づいてきた文化も、こういった理由であっという間に衰退してしまうのだと、考えさせられます…
いまでこそ着物ブームなんて言われていますが、着物もまさに洋服文化の普及であっという間に衰退し、日常から遠のいてしまったものの一つ。
「日本人は自分たちが平気で捨ててしまった文化を、海外から「素晴らしい」と言われてようやく、その魅力を再確認するようなところがありますよね。」
先生の言うように、着物に限らず若い世代からしたらもはや異文化になりつつあるものはたくさんあるように思います。
生地の裁断
裁断は素人には到底、算出することは難しいので、先生がエクセルデータを使いながら計算していきます。
汚れがある場合はそれを目立たない部分に配置したり、「柄合わせ」といって縫い合わせた生地同士の柄が違和感の無いように調整していきます。大きな模様がある場合はそれを着物全体のどの位置に持ってくるかも重要な要素になるのでとても重要な作業です。
「基本的なセオリーはありますが、絶対的な正解は実はないんですよ。その柄合わせにどんなストーリーがあるか説明が付くこと、それが粋というものです。」
着物はどうしても「詳しい人に笑われてしまったら…」という懸念が付きものですが、本来そうやって自分の個性を出して楽しんできたものなのですね。
袖や身頃の生地の折り返し部分になる位置にこのような三角の「しるしつけ」を行います。三角の長辺がある方が着物の前に来るという意味。
裁断する位置も鯨尺で測り、しるしを付け、柄に沿ってまっすぐちょきちょき…切るのかと思ったら、先生は生地の横糸をするっと一本抜き出しました。
糸を抜いたあとはこんな感じに。
少し見にくいですが、横糸が抜けた部分が線になって見えます。これは「地の目を通す」という作業で、この線にそって裁断していきます。
普通、紙なんかを手作業で切るときは両側とも長さを測って、線で結んでから切りますが、布の場合歪みがあったり、プリントの場合は柄がまっすぐ走っているとは限らないので、地の目を通すことで正確に裁断することができます。
裁断した生地は、縫いはじめる前に丁寧にアイロンで歪みを取っていきます。岩佐先生の教室では業務用の大きなスチームアイロンを使用していますが、家庭用のアイロンでも問題ないそう。
アイロンがけされた生地を半分に畳むと、袖のパーツを縫う準備ができました。
先生にまち針を打ってもらい、練習用の木綿生地のときよりずっと細かい、1〜2mmの縫い目で丁寧に運針で縫っていきます。
まだ小さいパーツだからか、着物を縫っている感覚がないな、と思いながらちくちく…
しかし先生曰く実は「袖」というパーツは、直線縫いがほとんどの和裁の中で唯一、カーブして縫う部分があったり、着たときに一番細部が目につく袖口の縫い目があったりと、かなり色々な要素が詰まっているそう。
「自分で縫ってみると、着物を見たときにその仕立ての良し悪しが分かってきますよ。“ あらこの袖縫いヘタクソね ” なんて。」
と、ユーモアも交えながらこれから縫うパーツの準備を進めてくる先生。
しるしを付けるときは和裁専用のコテを使います。
もちろんまだまだそんな域には程遠いですが、どんな生地が高くて上等かということばかりでなく、丁寧に縫われたものが分かるようになるなんて、素敵ですよね。
使い手が使いやすいように、長く使えるようにと手間をかけてモノを作る。
大量生産品ではない「手しごと」に愛着を持つのは、いつもこんな瞬間だなと、思います。
丸くカーブを付けて縫った部分は、生地を表に返した時に丸みがきれいに出るように、外側の余白部分をきゅっと絞るように縫ってコテを当てて一手間を加えます。
生地を表に返してアイロンをかけたら、袖の完成!
袖の丸み部分は大きいほどかわいらしい印象に、小さいほどすっきりと大人っぽくおとなしい印象になります。洋服ほど形のバリエーションは無い分、細部にこだわりを持たせるところに日本らしい粋さを感じます。
袖を縫い付けるのは、着物の本体である「身頃(みごろ)」を完成させ、一番最後。
まだまだ先は長いですが、文化的背景も学びながら、一針一針縫い進めていきます。