【お出かけルポ】伝統の刺繍「刺し子」を学ぶ。手仕事で人々を繋ぐ群馬県「蛙トープ」に行ってきました!
みなさんは日本の伝統的な刺繍、刺し子をご存知ですか?
刺し子は紺色の布に白い糸で日本の図柄などを刺繍する、伝統的な技法です。
カラフルな刺繍とは違った、素朴な美しさが魅力で、手芸好きの方なら一度は目にしたことがあるかもしれません。
整然と糸が並んだその見た目の美しさも魅力ですが、実は本来、刺し子をする目的は、布全体に細かに糸を張り巡らせることで強度を保ち、貴重な布生地を丈夫で長持ちさせるためにはじまったそう。さらに寒さをしのぐ防寒の意味もあったといい、暮らし知恵が込められたものなのです。
そんな刺し子の教室や、商品の制作をしているという飯塚咲季さんに出会ったのは、ひとり旅の途中、島根の群言堂でした。
咲季さんが運営する教室兼店舗だという「蛙トープ」が群馬県にあると聞き、車旅の最終目的地として遊びに行ってみることにしました。
教室、ギャラリー、ショップ…多様な顔を持つ場所「蛙トープ」
群馬県吾妻郡高山市。
旅の途中地点の長野から車を走らせ、キャベツで有名な嬬恋村を超え、国道145号沿いを走っていると左手に「蛙トープ」の看板が見えてきました。
「刺し子教室に参加してみよう〜」と思って訪れたのですが、着いてみるとかなり多様でおもしろい空間が広がっていたので、まずは蛙トープのご紹介から!
「手仕事に出会える場所 蛙トープ」と書かれたその看板を目印に中に入り、すぐ右手には、キッチン付きの貸しスペース「カエル舎」があります。
青いトタンの外装の建物の中に入ると、カフェのようなおしゃれな空間が!元々内職工場だった建物を、廃材を使って改装したそうです。
ここではイベントやワークショップが行われたり、出張カフェのような形で使用されることも。咲季さんが企画する「暮らし野シューレ」というイベントもこのカエル舎で毎月行われています。シューレとは「学び合いの場」という意味で、野に学び、じっくりと暮らしに向き合えるようなさまざまな手作りを楽しめるワークショップなどが開催されています。
「カエル舎」を出て、鉄の彫刻などが並ぶ素敵な庭を抜けると蛙トープのショップが見えてきます。
入り口には古びた椅子がかわいらしい看板にアレンジされていました。さりげなく季節の草花があしらわれているのも素敵です。
ショップの中には、布小物・手織り・陶磁器・木工・金工・など、作家さんが丁寧に作った「手仕事」の品が並びます。これらは飯塚咲季さんがチョイスしたものだそうです。
中には咲季さん自身の刺し子の作品や、お母さまが織り機で織ったというストールも。
さらには、おばあさまが作ったという余り毛糸の靴下も置かれています!
作家さんだけでなく、家族の手仕事もたくさん詰まった「蛙トープ」、実は実際に家族が暮らす民家の一部を改装して作られています。
元々バラバラに住んでいた家族がこの家に集まることになったとき、それぞれの好きなことができる場所にしようという話になったそう。しかしそれは「家族の事業」としてというよりは、自然と互いの居場所をつくっていくような、今の形になっていったのだと言います。
「蛙トープ」というユニークな名前の由来は七十二候(しちじゅうにこう)という、古代中国で考案された季節を表すことばにヒントを得たそう。
蛙トープをオープンした5月はじめころが、蛙始鳴(かわずはじめてなく)の時期だったので、カエルというキーワードと、そこに、ビオトープのように有機的に人々が関わるイメージを重ね合わせて「蛙トープ」という名前にしたのだとか。
自由で無理のないスローな印象のある中で、センスの光る蛙トープ。そんな蛙トープの一番奥にあるのは、「GALLERY天泣(てんきゅう)」です。
この場所で今回の目的である、刺し子教室を開催しています。
いよいよ、はじめての刺し子に挑戦!
「天泣」とは雲がないのに降る雨のこと。蛙トープらしい素敵なネーミングです。
こじんまりとしながらも、おしゃれな空間。刺し子の教室として使用している他、ギャラリーとして貸し出しもしているそう。今回は定期的に通われている生徒さんに混じって、体験させていただくことに。
生徒さんたちは前回の教室の続きからはじめていきます。
中には「スリッパつくってみたの!」と、売り物のような力作を披露される方も!伝統的な技法のかしこまったイメージとは違い、つくるものもペースも人それぞれ。先生の咲季さんに教わりながら、刺し子という表現方法で自由にものづくりを楽しんでいるようす。
教材として咲季さんが作った資料を見せてもらうと、細かな方眼の設計図が…なんだか難しそうだなあ…と思っていると、
「元々刺し子にこんな設計図はなかったんです。元々は生活に必要な暮らしの知恵だったので、針子(はりこ)さんは自分の頭の中にある完成イメージを頼りに、まっさらな布にいきなりチクチク縫っていたそうです。ところが、時代の変化と共に刺し子が忘れ去られようとしたとき、後世に残そうと、こういった図面が作られるようになったんです。」
と、咲季さん。
確かに、大量生産でものが作られるようになってからは、刺し子をしてまで1枚の布を大事に長く使おうという人はどんどん減っていったのでしょう。
しかし、刺し子は布を丈夫にしたり、寒さをしのいだりという、その実用性だけでなく、その図案の種類やデザインもかなりの種類があり、かわいくておもしろいのです。
もう、やけくそなんじゃないかというほど、細かく全面に縫い巡らされた「米の花」や、
交互に配置されたバランスがおもしろい、「そろばん」。
さらには「蛾」なんていう柄も!
咲季さん手作りの刺し子見本帳も素敵で、見ているだけで楽しくて時間がどんどん過ぎてしまいます。
私は今回1日だけの体験教室なので、簡単にできるピンクッションをつくることに。柄は簡易的な「米の花」を縫うことにしました。
先生があらかじめ方眼の線を引いてくれた布に、さっそくチクチク縫いはじめます。
刺繍というと、模様を一つ一つ縫うイメージがあったのですが、刺し子は元々生活の知恵だっただけあって、糸を無駄にせず最短距離で縫えるよう、基本的にまっすぐチクチク縫っていきます。
縦、横、斜めと完成図を参考に針を動かすこと約1時間…
無事に「米の花」のピンクッションができました!!
土台の木の枠は咲季さんが知人の木工作家さんにつくってもらっているそう。
ころんと小さな佇まいのかわいらしさもありますが、自分の手でつくったと思うと感動もひと塩です。そして、思っていたよりもずっと簡単で、色々と作ってみたいなと思える楽しさがありました。
元々、咲季さんが刺し子と出会ったのは、大学時代、山形に住んでいた時のことだったそう。
教室のアシスタントとして刺し子をはじめたので、「教え方」から学んだと言います。そんな刺し子をこれからはもっと伝統の枠を超えて、自由に自分の作品として表現していきたいそう。
刺し子教室のみならず、ショップやワークショップを手がける咲季さん。お話を聞いていると、なんとさらに、自然農法の田んぼや畑まで手がけていると言います。
よくそんなに色々なことができるな…!と思いますが、もともと色々な手仕事は暮らしの中で生まれ、少しの工夫で暮らしを豊かにしようと培われた知恵。
どっぷり一つのことだけやるのも悪くないですが、一人一人が少しずつ色々なことを手がけて暮らすのも、豊かな暮らしの一つのあり方ではないでしょうか?
家族という枠を超えて、お店・ギャラリーという枠を超えて、手仕事のあり方の枠を超えて…
まさに有機的なつながりを感じさせる蛙トープのこれからが楽しみです!
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蛙トープ
https://kaeru-top.wixsite.com/kaeru
ショップは毎週日・月・金OPEN!
暮らし野シューレは毎月第3日曜日に開催しています。