【お出かけルポ】割り箸から日本の未来を考える、 中本製箸の国産割り箸/金沢の中本製箸へ行ってきました
日本人なら、ほとんど使わない日はないであろう「箸」。
その中でも割り箸は、年間260億膳以上、一日あたりおよそ7,100万膳が消費されていると言います。
今回伺ったのは、そんな割り箸を「国産の間伐材だけ」で作っている中本製箸さん。金沢にある国産割り箸のトップメーカーです。
昭和34年から続く中本製箸さんの工場は金沢港にほど近い場所にあります。
今回は、社長の中本さんにお話を伺いながら、国産木材が割り箸になるまでの作業工程を見せてもらいました。
工場に足を踏み入れると、箸になる前の材料、年季の入った機械や、出荷を待つ製品が所狭しと並びます。
見たこともない量の箸に圧倒されてしましますが、これらは全て国産の蝦夷松や杉を材料に作られているそう。
良い木材をわざわざ箸にしてしまうなんて、なんだかもったいない気も。
そもそも「森林伐採によって自然環境を破壊する」「もったいない」と、エコとは程遠い存在であるようにも思える割り箸。
しかし、社長の中本さんは、「国産材料で」箸をつくることにこそ、意味があるのだと言います。
「割り箸=環境破壊」は大間違い!?
「木を切ることは自然を破壊する行為」というのは、環境問題を考える上で当たり前すぎる常識として考えられてきましたが、実は、「木を切らない」ことが森を弱らせる原因にもなるのだと言います。
国土面積の約7割を森林が占める、森林大国日本。
そして戦争復興のために木材の需要が高まり、植林された杉などの森林は現在、手入れが行き届かず荒廃しているところが数多くあるそう。
放置され、荒廃した森林では土砂災害が起こりやすくなったり、また、大きくなりすぎた木は二酸化炭素の吸収も悪いのだそう。
適度に育った木は伐採して、また新しい木を植える。
そうして森を循環させることが、空気や水のきれいにし、よい環境をつくるのだとか。
工場内にはこんなことばも。
「人間も森も、いつまでも年寄りが居座ってちゃダメ。若者が活躍する、循環する環境にしていかなきゃ。」
と中本さんは冗談交じりに、でも真剣な口調で語ります。
海外製の割り箸は薬品まみれ!?
そして、国内の資源を有効活用だけでなく、直接口に入れる箸の安全性にも目を向ける必要があるそう。
実は中国で製造されている割り箸には、大量の漂白剤、防カビ剤が使われており、さらに製造環境も不衛生な工場が多くあるそうで、そのほとんどは製造の認可を取っていないのだとか。
そんな中国製の割り箸の日本国内シェアはなんと9割!
食品に関しては、農薬や生産地などを気にするのに、食事の度に口に入れる箸がどのように作られているかは、自分を含め注意を払わない人の方が多いように感じます。
お話を伺いながら、さらに工場での作業工程も見せてもらいました。
大量の割り箸が並ぶ工場内、一口に割り箸といっても、元禄箸、利休箸、天削箸などたくさんの種類があり、長さも異なります。「高級感を出したい」と規格にはない長さを注文するこだわりを持ったクライアントもいるのだそう。
さらに中本製箸さんでは、口当たりがよくなるように箸先を丸く削るなど、手間暇を惜しまず箸作りをしています。
中本製箸さんでは、箸だけでなく、「経木(きょうぎ)」と言って、お弁当の仕切りなどに使われる薄い木の板もつくっています。
「松や杉には抗菌作用があるし、お弁当箱の中であったかい食材から出る湿度もほどよく吸収してくれる。昔ながらの知恵だね。」
穏やかな口調とは裏腹に、工場内を早足で闊歩しながらあれもこれもと見せてくれる中本さん。
箸になる前の板材を切り出す工程では、木目の向きを確認しながら2人のスタッフの方が息をぴったり合わせてテキパキと作業を進めます。
板状の木材を細く裁断すると、なんとなく箸らしい形に。
バラバラな箸の向きを整える機械。
さまざまな機材がありますが、想像以上に人の手や目を使って割り箸が作られていることに驚きます。
こちらは木材を殺菌するために煮沸する機械!もくもくと水蒸気が上がる大きな箱がいくつも並ぶ迫力ある光景です。
「丸太のままの木材もみせてあげよう。」
と、外に出てみると、そこには大量の立派な丸太が!
こんなに立派で大きな木材を、あの細長い割り箸にしていたとは!
もっと「いかにも間伐材」といった端切れのような材料を使っているのだとばかり思っていました。
「建築材料とかに使えそうな立派な木ですね。」
そう言うと、中本さんは丸太を指差し、
「国産杉はこういう節がたくさんあって、建築業界は使いたがらない。だからこそ、放置される森林はたくさんあって他に使い道が必要なんだ。」
確かに丸太にはところどころ丸い節があります。
素人目には十分建築材料に使えそうな立派な木材だけに、これらが使われずに放置されているとは驚きです。
さらに中本製箸さんでは、作業工程で出た細かなチップなども無駄にしないよう、専用のボイラーを開発して、エネルギー活用しているのだそう。
それを聞きつけ、廃棄に困った古いコンテナなどを持ち込む業者もいるのだとか。
さいごに
一膳たった数円で、しかもほとんどの場合買わずとも買ったごはんに付いてくる割り箸。
中本さんの理念に共感して商品を注文する企業も多いそうですが、消費者という立場からも、身近で日々使う物だからこそ何を選ぶか、それを続けるかが重要なのだと再確認。
まずはその一食、一膳から。