【お出かけルポ】切るのが楽しくなるほどの切れ味に感動…!包丁のプロ直伝、奥が深くも、実は簡単な包丁の研ぎ方講座
みなさんは、家にある包丁を自分で研いだことがありますか?
「手軽な研ぎ器で済ませてしまっている…」
「素人が研いだら包丁をダメにしてしまう??」
と、中々砥石で包丁を研いだことのある方も少ないのではないでしょうか?
今回参加したのは、京都で活躍する「食道具 竹上」の廣瀬康二さんから教わる包丁の研ぎ方講座。年に2、3回しか東京に来ないという廣瀬さん。タイミングよくfacebookのイベントページを目にして、参加できてラッキーでした。
元々、呑んべえ故の料理好きで、いっちょ前に出刃包丁や刺身包丁まで持っているにも関わらず、「ちゃんと研ぎ方を教わるまでは怖くて自分で研げない…」とビビっていた私。
「ようやく研ぎ方を学べる!」と、買ってから半年そのまま使い続けていた包丁たちを手に、参加してきました。
会場は西荻窪にある「醸カフェ」。
発酵食品で「病氣にならないカラダづくり」を提案し、昼間はカフェ、夜はぬか漬け作りなど様々なワークショップやイベントを開催しており、数ヶ月先のイベントまで満席の人気スポットです。
参加者は10名程度で全員女性。やはりそれなりの包丁を持っているだけあって年上の方ばかりで、中には料理人らしい方も…本格的すぎて付いていけなかったらどうしよう…と今さら不安な気持ちに。
研ぎ方を教えてもらった京都「食道具 竹上」の廣瀬康二さんは、プロの料理人にも研ぎ方を指南する包丁のプロであり、「庖丁コーディネーター」として研ぎ方だけでなく自ら様々な包丁づくりを手がけています。
職人気質というか、気難しい方なのかな…と思いきや、包丁について語り出すと京都弁でユーモアたっぷり!熱のこもった熱い包丁トークに引き込まれながら、早速講義がはじまりました。
まず、包丁をきちんと研ぐと何が良いのか?
言わずもがな、「切れ味がよくなるから」ですが、切れ味の良い包丁は単にストレスなく食材を切れるというだけでなく、様々なメリットがあるのです。
まずは視覚である見た目。
よく研がれた包丁であれば切り口にツヤが出て、「角」が立つんだとか。
口に入れた時の舌ざわりはもちろん、人が「おいしい」と感じるには見た目も重要で、よく目隠しをして物を食べると美味しくないとか、味が分かりにくいというように、食材の切り口で料理のレベルはぐんとあがるのです。
逆に言えば、切れ味の悪い包丁は食材を痛めつけてしまう。
「私はよく、食材が怖がらない包丁で切りなさい、と言うんですよ。」と、廣瀬さん。
そして、繊維を壊さずにスパッときれいに切られた食材は、薬味のネギなんかでもすぐにはクタッとせずにシャキシャキっとした食感の「持ち」が全く違う。
つまり鮮度を保つためにも重要なことなのです。
また生ものの鮮度だけでなく、煮物、焼き物においても、味の入り、熱の入りが格段に良くなる。
「よく切れる包丁で作ると、料理に「勢い」がでるんですよ!」
そう語る廣瀬さんの言葉にも、ぐっと力が入ります。
意外と理解していない?包丁の基本知識
包丁を研ぐことの大切さは分かったけれど、やはり高くて上等な包丁を選ぶべきなのでは…?
と、思いがちですが、よほどの粗悪品でない限りは自分が気に入った物をきちんと手入れして使うことが大切だそう。
そもそもみなさんの家にはどんな種類の、どんな素材の包丁があるか把握していますか?
まず、一般的に家庭で使われているものの多くは「三徳包丁」という包丁。
「三徳」の「三」というのは「肉」「魚」「野菜」の3つを指し、骨などの硬い素材を除けば、「なんでも切れる万能な包丁ですよ」という意味。
素材は、家庭では錆びないステンレス製の商品の方が「扱いやすい」と圧倒的に多く使われているが、すぐに切れ味が落ちてしまう。
一方プロや料理好きの方は鋼の包丁を使っていることが多く、切れ味がよくシャープさが長持ちするけれど、手入れを怠ると錆びやすいのが難点。
廣瀬さん曰く、鋼がよくてステンレスがダメということではなく、自分にあった物を選び、手入れしながら使うことが大切とのこと。
そして、
「料理は何をするにも「切る」ことから、それ以前に包丁を手入れすることからはじまります。」
和食の世界には「割主烹従(かっしゅほうじゅ)」という言葉があり、「割」つまり切ることが料理の主であり、「烹」の煮る、蒸す、炊く、焼くことはそれに従うという意味。
これが割烹料理の語源でもあるのですが、それほど「切る」ことは料理において重要なことであるという意味が込められているのです。
一見、料理の下ごしらえとして地味な作業のようにも思えてしまいますが、「顕微鏡で見た切り口を比較してみると…」なんてことをしなくても、昔の人は包丁での仕事の大切さを分かっていたんだな、と考えさせられます。
包丁を研ぐ上で大切なのは、「守り」をすること
その「守り」に必要なのは、使う度にする日頃のケアと、こまめに包丁を研ぐこと。
日頃のケアについて
包丁を使った後は刃先を洗剤でささっと洗って終わり…という方が多いのでは?
鋼の場合は錆の原因の一つはやはり「水分」。
まずは包丁を使い終わったあと、そして使っている最中も、包丁をこまめに布で拭くことが大切だそうです。これは板前さんがやっているのを見たことがある方も多いかもしれません。
そして、重要なのがなんとクレンザーでのケア!
クレンザーで包丁を研いている方はほとんどいないかと思いますが、実は洗剤で洗っただけでは野菜のアクなど取りきれない「汚れ」があり、この汚れは鋼の場合は錆の原因になりますし、ステンレスでもきちんと落としたいところ。
やり方は簡単。クレンザーを包丁に少量つけて、スポンジでこするだけ。この時に刃先を傷つけてしまわないよう、包丁の背から刃に向かってこするように気をつけて。
さらに柄の部分も。
刃先は洗っても柄の部分は洗わない…という方も多いかもしれませんが、木の柄の場合はここから包丁の劣化が進んだり、食中毒の原因にもなるんだとか!
研ぐ以前にできる重要なケアがあったことに驚きです。
研ぎ方の5つのポイント
今回教えてもらったのは「片刃」ではなく「両刃(諸刃)」の包丁の研ぎ方。
一般的な三徳包丁などは諸刃になっていて、刃先が削れて丸くなってきたら、表面、裏面の両側から角度をつけて研いで刃先をシャープに尖らせるのです。
まず、上から見た包丁の向きですが、砥石に対して表面は30度程度、裏面は80度程度に。
そして横から見た、砥石に当てる刃の角度。これはステンレスと鋼で異なります。
ステンレスは砥石に対して30度、鋼の場合は15度に当てます。理由は少し難しい話になるので省きますが、鉄の組織の構造上、これがベストな角度なんだとか。
いよいよたっぷりと水を含ませた「中砥石」という中くらいの荒さの砥石で包丁を研いでいくのですが、研ぐ上でのポイントが5つあります。
- 刃先、真ん中、根元と分けて研ぐ
- 両面を均等に研ぐ
- 「どろ」を使って研ぐ
- 「かえり」を確認する
- 仕上げ研ぎを必ず行う
1.刃先、真ん中、根元と分けて研ぐ
まず、包丁は一度にあちこち研ごうとせずに、数回に分けて同じ回数研いでいきます。
2.両面を均等に研ぐ
そして表面を10回研いだら、裏面も10回研ぐ。
研ぐ回数は、包丁の状態次第なので後で説明する「かえり」を確認しながら。
3.「どろ」を使って研ぐ
砥石で包丁を研ぐと、だんだん水が濁ってきます。
この「どろ」とよばれるものが研磨剤の役割をするので、洗い流さずに、水分が減ってきたら少しずつ水をかけて研ぐようにします。
4.「かえり」を確認する
片面を研いで、手を切らないように注意しながら刃先を触ると、「かえり」という指先に引っかかるようなバリが出ます。これが出たら包丁が研げている証拠なので、裏面も研ぐようにします。
5.仕上げ研ぎを必ず行う
最後に砥石と包丁についたどろをキレイに洗い流して、たっぷりの水をかけながら、優しい力で研いで仕上げます。各部位5回程度。両面行います。
そうすると「かえり」がなくなり、包丁がシャープに研がれた状態になります。
この時どろが出てしまうとまた同じことの繰り返しなので、できれば流水を当てながら。
研ぐ途中でどろを流してしまったり、力任せに研いだり、「仕上げ研ぎ」をしなかったりと、プロの料理人でも誤解している部分が多いそうですが、ポイントさえ押さえればやり方は至ってシンプル。研ぎ終わった包丁で新聞を切ってみると気持ちがいいほどスパッと簡単に切れてしまいました!
最後に、道具と向き合うこと
100円でも包丁が買えてしまう時代。
それでも、道具を手入れして長く使うこと、そしてその一手間で何倍も料理が美味しくなることは何物にも代えがたい良さがあります。
そして、その味や道具への愛着を知ってしまったら、もう戻れないというほど、やはり手間をかけた道具や料理は「答えて」くれるものなのだと、改めて感じさせられる2時間でした…!
ぜひあなたも包丁の「守り」、はじめてみては?